今日はブドウの病害についてです。
Phytoplasma(ファイトプラズマ)とは、植物に寄生して病害を起こすと細菌の一群の名称です。
過去にはMycoplasma-like organism (= MLO マイコプラズマ様微生物)と呼ばれていました。
偏性細胞内寄生体( obligate intracellular parasite)という別の生物の細胞内でのみ増殖が可能な生物で、その生物単独では増殖することのできない微生物です。偏性細胞内寄生性微生物とも呼ばれます。偏性細胞内寄生体にはクラミジア、トキソプラズマ、フクロカビなどの細菌や菌類、原生生物、生物のくくりには入りませんが全てのウイルスもこのグループに属しています。
Phytoplasmaは、植物の師部や一部の昆虫に寄生します。植物への感染経路はヨコバイやウンカ、セミなどの師管液を吸う昆虫による媒介で、これらの昆虫の体内でも増殖をします。以前はウィルスによる病害と考えられていましたが、1967年に日本の植物病理学者である土居養二教授によりマイコプラズマに似た細菌であると発見されました。現在では1,000種以上の植物に感染する病原体として知られています。
病害が特に問題となっているのは、ココヤシ、サトウキビ、サクランボ、リンゴ、ブドウ、イネなどの植物です。媒介となる昆虫の多くが暖かい地域を好むため熱帯や亜熱帯などの暖かい地域で甚大な被害をもたらしています。
Phytoplasmaによる症状は、わずかな黄変から枯死、成長の異常による奇形などに至るものまで多様な症状が見られます。この症状の原因としては、師管でのPhytoplasmaの増殖により栄養の循環が妨げられること、ストレスにより光合成などの代謝に影響が出ること、植物ホルモンに異常が生じることなどが考えられています。
ホルモンの異常などによる例として、Phyllody(フィロディ 花の構造に異常が生じ、緑色の花のような葉が出てくる。花が咲かないので種子や実ができない)や、てんぐ巣病( witch’s broom 英語では魔女の箒 樹木などの植物の茎や枝が異常に密集する奇形症状)などの症状が見られることもあります。
1本の植物の単位で見ると、師管の流れが悪くなることで栄養不足やストレスによる黄変が起き、葉緑体の不足により更に光合成が阻害され、栄養不足に陥り最終的に枯死してしまうという被害の広がり方が考えられます。
また、畑や地域の規模で考えると、媒介虫によって植物がPhytoplasmaに感染し、感染した植物の師管液を別の媒介虫が接種することにより新たに感染した昆虫が増える、そしてその昆虫の体内でPhytoplasmaが増殖し、次の植物を捕食した際に新たに感染した植物を生み出すといった経路で該当の昆虫の活動範囲内の植物が次々と感染してしまいます。
Phytoplasmaの被害を防ぐ有効な策は現在はまだ多くありません。
被害を未然に防ぐ有効な薬剤などがないため、対応策としては感染を媒介する昆虫の防除や感染してしまった植物の除去などが行われています。抗生物質の使用で増殖を抑えることができますが使用を中止すると再発してしまうためあまり利用されていません。
多くの媒介虫が小さく発見や防除が難しいため、感染に対して有効な手段としては、感染した植物をできるだけ早く除去し、感染した媒介虫の増殖や拡散を防ぐことです。そのため、アメリカの州によってはPhytoplasmaに感染した媒介虫が発見された際には、迅速に対策を講じることができるという州法がある地域も存在します。
Phytoplasma には多くの種類が存在しますがブドウに被害を及ぼすものはPhytoplasma Candidatus Phytoplasmavitisと特定されています。媒介となる保因者は1種類で、北米原産のヨコバイScaphoideus titanus / American grapevine leafhopper(アメリカブドウヨコバイ)という5ミリほどの小さなセミの仲間です。この虫はブドウの木のみに寄生します。
ヨーロッパで初めて被害が確認されたのは1949年のフランス アルマニャックで、ブドウの木に黄変(Flavescence dorée)などが見つかりました。当初、被害はフランス南部とイタリア北部に限定されていました。
1990年代に入るとPhytoplasmaの被害や媒介生物の蔓延は減少しているようにみえました。しかし1997年〜1999年にかけてフランス ジロンド(ボルドーのあたり)で新たな症例が報告されました。そして2004年にはオーストリアで、2006年にはポルトガルやバルカン半島でも媒介虫やPhytoplasmaの被害が確認されるようになりました。
この被害を受けやすい品種としてAlicante Bouschetなどがあります。
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