Phyllody フィロディ

winelabo ブドウの病害について

Phyllody フィロディとは


植物の病害の一つです。
phyllomorphy(フィロモフィ)やfrondescence(フロンデッセンス)と呼ばれることもありますが、frondescence(フロンデッセンス)は展葉期や葉、葉が多いという意味でも使用されるため注意が必要です。

この病害は、植物がホルモン異常に陥り、本来であれば花になる部分が葉のような状態になってしまう症状のことをさしています。花を生成することができなくなるため、実をつけたり種を残すことができなくなってしまいます。そのため発症をした部分もしくはその植物自体を不稔性にしてしまいます。
一般的にPhytoplasmas(ファイトプラズマ)もしくはウイルス感染により引き起こされることが多いとされています。ただし、植物ホルモン(Plant hormone)のバランスが崩れることで発症するため、環境が原因である可能性もあります。

Virescsnce(ヴィレッセンス)というよく似た症状がありますが、こちらも花の色など元の色から緑に変わりますが、Phyllodyとは違い本来の構造や働きは維持できているので大きく異なります。Phyllody以外にも、ウィルスやホルモン異常で植物の形態に異変が起こる病気はいくつもあります。そしてこれらの病害は複数が併発することも多く見られます。


このPhyllodyという症状は18世紀後半にJohann Wolfgang von Goethe(ヨハン・フォン・ヴォルフガング・ゲーテ)によって彼の著作『Versuch die MetamorphosederPflanzenzuerklären』で発表されました。現在では本質的に正しいことが証明されている仮説ですが、当時はほとんどの科学者に受け入れられることはありませんでした。

この発見は花の部分が葉のようになってしまった奇妙なバラを見つけたことから研究が始まりました。
これは植物が成長をする際に初期段階で特定の干渉要因が起こると、本来つくられるはずの器官が正常に造られなくなってしまうため起こる現象だと考え『metamorphosis(メタモルフォシス=変態)』と名付けました。

その後1832年にドイツ系アメリカ人のGeorge Engelmannが著作『De AntholysiProdromus』で同じ症状をfrondescenceとして発表しました。また1850年代に入るとCharles Jacques Édouard Morrenも自作にて同じ症状をphyllomorphyとして、また類似する別の症例としてvirescenceのことにも言及しています。
Phyllodyという病名は、1869年に英国の植物学者Maxwell T. Mastersが著作『Vegetable Teratology』内で発表した造語です。この言葉の語源は古代ギリシャ語のφυλλώδης(phullodes 葉のような)という単語です。またこの際にfrondescence、phyllomorphyとPhyllodyは同意語であること、virescenceは別の症状であることも確認しています。


Phyllodyの症状は植物の中の花という器官が葉の構造に置き換わってしまう症状です。これは一部分のこともあれば完全に葉になってしまうこともあります。この病害が影響を与える可能性のある部位は『ツボミ、ガク(ヘタ)、花弁、雌しべ、雄しべ』です。この器官の中で雄しべが一番影響を受ける可能性が低いとされています。これはおそらく雄しべが植物内で最も分化・異質化した器官であるためとされています。また、心皮や雌しべはPhyllodyの影響を受けた際に緑化をする可能性が高く、特に胚珠の部分に影響を受けることが多いです。


Phyllodyは植物病理学の研究によると、ウィルスによる感染や媒介虫による感染により植物ホルモンに異常が起き、症状が引き起こされるとされています。他の成長異常の症状と併発する例も多く確認されています。
同時に発現することが多く確認されている症状は、Virescence、天狗巣病、クロロシス(白化)、発育障害などです。

植物ホルモンの異常により引き起こされるため、環境要因が原因の場合もありますが生物的要因の場合も多くあります。
生物的要因の主なものとしては、
◉Phytoplasmas(昆虫により媒介され植物の師部に寄生する原核微生物で200以上の植物の病害の原因になっている。)
◉ウィルス(ローズロゼット病RRDウィルスに似たようなもの)
◉真菌類(黒穂菌、さび病菌など)
◉卵菌・水カビ(Sclerophthora macrospora この菌に感染して症状が出た場合、小麦やとうもろこしなどのみの先端部に症状が現れるため『crazy top disease』とも呼ばれています。)
◉虫による損傷(この病害において昆虫は病害を引き起こす原因であるとともに、近隣の植物に感染を広げる媒介者としても機能しています。この媒介虫として最も一般的なものが『ヨコバイ』と呼ばれる小さなセミの仲間です。)

非生物的要因
開花時の水ストレスや過剰な暑さなど
Phyllodyが生物学的要因か環境ストレスによるものかは一つの植物に対して引き起こされた症状から診断できるとされています。
一つの植物に対して正常な花と異常を起こした花が同時に存在する場合の多くは環境ストレスによるものと思われます。環境ストレスにより異常が引き起こされた植物は、ストレス要因がなくなった後は通常通りの花を咲かせます。そのため通常の花と緑化した花が同時に存在する個体は環境ストレスを受けた可能性があると診断されます。また、ストレスにより緑化の変態をするという形質は遺伝的に受け継がれている可能性があります。

人工的な要因
Phyllodyを人工的に引き起こすことも可能です。
この場合cytokinin(サイトカイニン)という細胞分裂に関わる植物ホルモンを使用します。これは主に頂芽や側芽成長のバランスを取るために使われるホルモンで、天然のサイトカイニは高価なため合成品のベンジルアデニンやチジアズロンが代用されています。
また、Gibberellin(ジベレリン)を投与することによりcytokininの効果を抑制することができます。


Phyllodyは主に病害として取り扱われています。場合によっては観賞用の植物の育種などに使われたりもしています。
有名なものとしては緑のバラと呼ばれる中国のバラ品種です。元々は突然変異として誕生したものを育種し現在の品種にしたとされています。
園芸家にとっては薔薇のように挿し木で増やす植物が不稔性となり種を生産できないことはあまり大きなデメリットではないのかもしれません。

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