●不稔とは、植物が何らかの何らかの理由で発芽・生育する種子をつくらないことやつくることができない状態のことです。
●広い意味での『不稔』は、植物が花をつけないことや花ぶるいなど受粉前に花が落ちてしまうこと、種子が発芽しても生育しない場合など、生育できない種子を生産することや受粉のみでなくに花に問題が起きる場合も含めることがあります。
狭い意味での『不稔』は、植物の繁殖や種子の生産に関わる過程に問題がある場合に使われる。この場合は主に、「生殖細胞の形成」から「受精(受粉)」や「種子の生成」の間のことを指しています。
●植物は多くの要因から不稔性に陥るといわれています。ウィルスや環境ストレスによる場合もあれば人工的に不稔性の植物をつくりだす事もあります。
●不稔性に陥る場合の多くは、雌雄どちらか(もしくは両方)の生殖細胞に欠陥がある可能性が大きいです。しかし生殖細胞そのものには異常はなくとも、自家受粉や特定の系統間のみでの交雑を防ぐために、不稔性になることがあり、この場合は『不和合性(Incompatibility)』と呼ばれています。不和合性とは一般的に、植物が花粉を受粉しても受精せず、種子をつくらないことで、花粉の不発芽・生長停止・花粉管の形態異常などにより起こることが多いとされています。
●不稔性に陥る自然要因として、主にウィルスと環境ストレスなどが挙げられています。
ウィルス感染により不稔が起きる場合は、植物ホルモンに異常がおき、生殖に関わる部位が本来とは別の形で成長してしまい、種子を生成できなくなっていることが多くみられます。この場合感染した部位は継続的に不稔性に陥り正常な状態に戻ることはありません。有名な病害はVirescence・Phyllody・クレイジートップ(一部分の不稔)・てんぐ巣病などがあります。
●環境ストレスによるものは、稲の暑さによる受粉不良などが有名です。多くの植物が暑さや水ストレスなど生命の危機に陥るとなんらかのかたちで、種子の生成を停止させることが知られています。これは成長過程のどの段階で起こるかによって不稔性と呼ばれるか別れることがあります。
●人工的に植物を不稔性にする場合は、植物ホルモンに影響を与える薬剤を用いる場合(ブドウのジベレリン処理による種無しブドウの生産、稲のジャスモン酸処理による雄性不稔か処理)、熱などによる処理(成熟前の稲穂の熱湯処理)などが有名です。
これらは新品種や、嗜好品としての植物(果実や野菜・花など)、既存の品種から生産性の高いハイブリッドやF1品種(雑種第一世代)の開発のために行われています。
また植物は、細胞の染色体の基本数が奇数の場合(三倍体・五倍体など)、ほとんどが不稔性となります。これは相同染色体数が奇数個のため、対合がうまくいかず不稔性となり種子がないもしくは『しいな』という中身のない種子ができます。
この三倍体の植物として有名なものは食用のバナナ(種無しバナナ)、種無しスイカ、彼岸花などです。
自然界で奇数倍体の植物ができる場合もありますが、数は少なくポプラの3倍体が有名ですがこちらは山火事が原因でできたとされています。
また、動物では三倍体など倍体数というものが基本的に存在していません。しかし魚類では人為的に染色体を操作することによって三倍体の生き物を生み出すことに成功しています。この場合もやはり三倍体は不妊となり、そのため成熟することがありません。鮎のような年魚(生まれたその年のうちに性的に成熟し死ぬ魚)も不稔性となることで、産卵することも1年で死ぬ事もなく、数年間にわたり発達・成長を続けて大型化するとされています。
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